#1
私は溜息をつく。 「……老い先短い老人を捕まえて説教か。意味のないことを」
「そうじゃない、憐れんでいるだけさ。そこでさっきの組む話だ。」
メフィストは尻尾を揺らし、話を続ける。
「大悪魔メフィストさまが、お前の知らない快楽でその空っぽな魂を満たしてやる。どうだい?」
猫が書物の山の上で胸を張った。 「 お前を人間にしてあげよう!」
静まり返った書斎に、衣装の胸につけた宝石の音がちゃりりと響く。
̶̶魂を、満たす。生涯を知識に捧げても、ついぞ得られなかった充足。 それをこの猫が与えるというのか。
「……条件を聞こう。対価は何だ」 「お前の魂をちょうだい。満たされた暁にはね」猫はあっさりと言った。
「私である理由は?他にも人間はいるだろう」
「実は別で賭けをしていてね。お前の魂を快楽で満たせるかどうか、勝負しているのさ」 ̶̶何だそれは。
賭けの対象だと?考えれば考えるほど頭がくらくらしてくる。 「……一応、その賭けの相手も聞いておこうか」
「忌々しい、神だよ」 猫の声が低くなる。 「まあそれはファウスト、お前には関係ない」
真意を糺す間もなく、猫はすぐに無垢な笑みを顔面にべたりと貼り付け、言葉を継いだ。
「僕はメフィストフェレス。これはお前と僕の契約だ。大丈夫、悪いようにはしないよ」