#2
僕は悪魔で、気付いた頃には人間の魂を奪う使命を持っていた。 契約を結んで、快楽(もしくは、絶望)で器を満たしてやれば、 魂は簡単に堕ちて僕の手中に収まる。 ファウストと僕は、長い長い冒険の旅に出た。人間一人、悪魔一人のパーティーだ。 ファウストは森羅万象の知を極めた人間だった。 その果てに、悪魔の僕でさえ識り得ぬ、微かな魔法をも繰れるようになったという。 道を極めたものの特権か。元来、奇跡と縁遠い人間という種族にもそんなことがあるらしい。 こいつは持ち前の才と魔法、そして僕の唆しによって、全てを手に入れていった。 意外にも、ファウストは快楽には人並みに焦がれ、絶望には人並みに顔を歪めた。 蓋を開ければ、どこまでもこいつは人間だった。 ……そのはずなのに、その魂だけが、どうしても満たされない。 最悪。ここまで手こずるのは久々だ。楽勝な賭けのはずだったのに。 「いつまでお前に付き合わなきゃならないんだい?」 とある都市。城下を見晴らす塀の上で、焚き火の前をぐるぐる歩きながら、僕は呟く。 「お前には極上の快楽も、燃え上がるような破滅も与えてきた。何が気に入らない?」 老学者はもはや“老”ではなく、若さを取り戻した肌は生気に満ちていた……物理的には。 「まったく。この期に及んでお前の魂はからっぽさ」 飯の支度をするファウストに、僕は悪態を続ける。 「僕だって、穴の空いた器に酒は注いでやれない。 足るを識る感性さえ壊れたか?哀れで空虚な人間だよ」 返事の代わりに、ファウストは僕の喉元をくすぐってきた。 ゴロゴロと喉が鳴る。……僕の意思じゃないぞ、断じて。