#2
悪態も口論もいつものこと。 僕が疲れて、こいつの酒の回りが限界に達した頃、眠りにつく。 だが、今日は―― 「……お前にとって、この旅は空虚か?」 ファウストがぽつりと言う。 「……何だって?」 「いや。もう少しなんだ」 ファウストはまた黙り込む。眼鏡の奥の瞳を、焚き火の光が揺らす。 ……笑ったのか、こいつ。 こいつのせいで、最近人間というもの自体がわからなくなってきた。 人心の掌握は悪魔の基本のはずなんだけどな。僕の悪魔としてのプライドはボロボロだ。 「いいかい?お前の魂を満足させて、契約は必ず果たす。勝つのは僕だ」 僕はムキになって言葉を継いだ。 ファウストはまたも応えず、黙って魚の切り身をひとつ、僕の鼻先に差し出した。 「腹が減ると気が立つだろう、お前」 「猫扱いするな」 「そうか」 ファウストは切り身を引っ込めた。 「……いらないとは言ってないだろ」 いつものやり取り。いつもの夜。 ただ、さっきの言葉だけが妙に引っかかっていた。