あの時と同じ、眩しいほどの温かな光が目を灼く。 ——さあ行け、冒険者たち。 積み重ねた戦いが、過ごした日々が、僕の頬をそっと撫でていく。 この終わりなき螺旋に、今、別れを告げよう。キミたちとの冒険の日々は、本当に楽しかった―― カラリ、と音を立て、最後の戦火の結晶が石畳に転がった。 肩口に"1000"の刻印を持つベラム・サークラムは、幾度となく聴いてきた絶叫とともに崩れ落ちる。 しかし、その声はこれまでと違う、どこか歓喜の響きを帯びているようだった。 エリュシオンが震える。 壁が透明になってゆく。床が、天井が、光に溶けていく—— 気付けば、僕たちは外に立っていた。 振り返ると、バベルは無数の粒子となって煌めき、 宙に解け始めている。 リュンコイスが、ゆっくりと視線を上げながら呟く。 「エリュシオンが還っていく——本来の場所へ」 塔の最上層も、徐々に天に霞んでいく。 「黄金の魂が集う死者の楽園。ベラムが無理やり地上に縛りつけていた場所が、ようやく自由になる」 消えゆく塔から、無数の魂が煌めきながら天に昇っていった。 「……ギタイたち」 契約で魂を奪われ、抜け殻として操られていた彼ら。 彼らにも一人ひとり、名があった。 生きた時代は違えど、みな願いを抱き、足掻き、絆とともに生き抜いたアスリートだ。 彼らは穏やかに微笑みながら言った。 「ありがとう。一緒に戦えてよかった」 僕は俯くしかなかった。 「……ごめん」 ギタイの一人が、去り際に何も言わず——ただ優しく僕の頭を撫でていった。 「観測終了。お前たちの旅路、確かに見届けたぜ」 役目を終えた観測者が、謳うように言う。 「What a show! 大いなる絆の前に、人々を惑わす戦の業火は敗れ去った!」 「……綺麗事だね」 僕は思わず小さく笑う。 「でも、悪くないかな」 リュンコイスも、明るくケラケラと笑った。 ……さて。僕は冒険者たちに向き直る。 最後に、ちゃんと謝らなきゃ。 ずっと人間になりたかった。 キミたちのように、魂を輝かせたかった。 ……でも。 「僕は悪魔だ。キミたちを騙した」 声が沈む。 「やっぱり、絆を手に入れる資格はない」 それでも——伝えたい。 一人ひとりの目を見る。 「でも……キミたちの近くにいられて、嬉しかった」 リュンコイスが首を横に振る。 「何言ってるんだ。お前の中にはファウストとの絆があるだろう」 「……え?」 「お前は悪魔だ——だが、この世の全ては神の意思で生まれる。悪魔もまた、な」 リュンコイスの声が、柔らかく響く。 「神から生まれた全てのものは使命を宿す。お前の使命は——人間を試し、その魂に絆をもたらすことだ」 「……僕が、絆を?」 「お前と過ごした日々が、ファウストにも絆を刻んだんだ。最後の瞬間、あいつを満たしたのは——」 あの時ファウストの眼に宿っていた輝き。 ——僕とファウストの、絆。 僕が同じ魔法に覚醒したことが、 なにより証左だったのかもしれない。 「……そうか、そうだね」 噛み締めるように頷く。 「さて……ファウストの魂を満たせるかどうか。そんな賭けだったな」 リュンコイスがにやりと笑う。 「……なんでキミがそのことを……?」 「お前は快楽ではファウストを満たせなかった。 だが——その魂は快楽よりも遥かに尊いもので満たされたようだ。俺の負けだな」 ——なぜ気づかなかったのだろう。 こんなに近くにいたのに。キミは…… リュンコイスは何も言わず、ただ優しく目を細めた。 「見事賭けに勝ったお前には新たな使命を与えよう。人間を見守り、その絆を輝かせ続けるんだ」 その指が、僕の胸の飾りに触れる。 宝石が、確かな黄金の輝きを放ち始める。 ――そう、金メダルみたいに。 その光は、じんわりと温かかった。 ――重い使命だね、カミサマ。 「……僕、行くよ」 深く息を吸い、僕は冒険者たちに告げた。 「どこかの時空にいるファウストに、会いにいかなきゃ」 「元気でな」 リュンコイスが言う。 「旅を続ければ、いつかまた会えるだろう。螺旋を巡るようにな」 「……ありがとう。みんな、また必ずどこかで!」 視界が白く染まっていく—— ……かつて、混沌の街に塔ありき。 「Jeez.複雑すぎるぜこの街は。まるでダンジョンだな」 そのすべてを観測し終えた神は、街の人々をただ見ていた。 人は絆を紡ぎ、今日も混沌の中を足掻く。 「Life is a journey. これからも、いい冒険の旅を!」 THE TOKYO MATRIX DUNGEON∞SPIRAL FIN.